Written by K. Sugawara Jun.16, 2005 Updated
on Jun.16, 2005
概要
2005年7月4日のDeepImpactによるTempel第1周期
彗星(9P/Tempel)の核へのimpactorの衝突により
飛び散ったダストが、
地上からダストテイルとして観測された場合、どのような形状になり、どのような時間変化をするかシミュレーションを行った。
計算条件
- 仮定
- impactの瞬間に、ダストはimpactorの進
行方向と逆方向に軸を持つcone上の様々な方角に、瞬間的に同時に放出される。
- 放出時刻=impactの時刻は、2005年7月4日6時UTとする。
- impactorの軌道は、JPL's HORIZONS Systemに
よる値を用いた。
- その後、ダストは太陽からの光圧と重力に支配されて運動を続ける。
- 彗星核との重力、ガスの抵抗等の力は無視できるものと仮定。太陽とダストの2体問題とし、運動方
程式を解く。
- 彗星核本体の運動は、 Orbital
Elements: MPC formatの軌道要素を用いて計算。
- 以下のパラメータの組み合わせを様々に設定し、7
月4.5日から40日後までの地球から見た形状の変化を数値積分
(Runge
-Kutta法)で計算。GIFアニメーションにした。
- coneの頂角の半分の角度 C(下図参照)
- ダストに働く重力に対する光圧の比 β (概ねβが大きいほど小さなダストと考えてよい)
- ダストの彗星核に対する相対的なspeed V
- βについては、過去の彗星のダストテイルで観測された値を参考とした。
- C、Vについては、予想が非常に難しいため、適当に設定した値である。逆に、観測結果から、これら
の値を決定できる可能性がある。
- 図の原点(中央)が彗星核の位置。右が西、上が北の方向。
- 1本の円は、
同じβ(ダストに働く重力に対する光圧の比)を持つダストの集合。こ
の計算では、βを、0から2.0まで20段階にわけて計算している。一番左側がβ=2.0、右側がβ=0.0.実
際には、βは離散的にではなく、連続的に分布しているので、図のよ
うな円の集合として「しましま模様」に見えるわけではない。あえて言えば、チューブ状に見え
ると言ったほうが実際に近いだろう。
- 各円の中心を
結んだ曲線が、いわゆるシンクロン曲線に相当する。通常の
Bessel-Bredkin法では、ダストの相対速度は0と仮定する。こ
の計算では、初速を与えているので、その分シンクロン曲線が太くなっていると考えればよい。
時間とともに、円の直径は大きくなっていく。
- この計算では、ダストの量(空間密度。
今回の場合、impact時に放出されるダストの量と言い換えてもよい)は一切考慮していない。力学的にそこにダストが分布する可能性を示しているだけ
で、実際に観測されるかどうかは、ダストの量に大きく依存する。また、impactと無関係に形成されたコマやテイルと重なって見えるので、さらに複雑な
姿になるだろう。この計算は、あくまで、様々なパラメータの値を仮定
した上で描いたもので、「このように見える」と主張しているわけではない。なぜなら、パラメータの値は、ほとんど予測不能なものであるから
だ。パラメータを変えると出力される図も変化する。
- 観測データを得た後で、その結果にあう
ように、パラメータを様々に変化させることで、パラメータを決定、すなわちimpact時に何が起きたのかを知ることができる。今回の計算は、そのための
予備計算であ
ることをご理解いただきたい。
- このサンプル計算による尾の発達の様子
は、次のように解釈することができる。
- impactorは、
図の右側から核に衝突する。
- impactorの飛んできた方向
を軸とするcone上にダストが放出されると仮定。
- すなわち、impact直後は、ダ
ストは図の右側へ飛んでいく。
- しかし、やがて太陽からの光圧を受
け、反太陽方向(図の左側)へなびいていく。
- その度合いは、βが大きい(サイズ
が小さいと言い換えてもよい)ダストほど大きいので、時間がたつにつれて、ダストの塊が左右に引き伸ばされていく。
- C,β、Vの値によって、形成され
るダストテイルの様相は大きく異なることがわかる。
シミュレーション結果
図によってスケール(描画領域の範囲)が異なることに注意
●ダストの初速度 V = 1.0[km/s]
- β = 0.0 - 2.0
- β = 0.0 - 0.1
●ダストの初速度 V = 0.01[km/s]
- β = 0.0 - 2.0
- β = 0.0 - 0.1
●通常のシンクロン曲線 ダストの初速度 V = 0 の場合
- impact時に放出されたダストのシンクロン曲線の変化
- 様々な時刻に放出されたダストによるシンクロン曲線の変
化
- 観測時刻からさかのぼって数えた放出時刻τを、 100, 80, 60, 40, 20日
の5種類について計算し、曲線であらわした。
- それぞれのシンクロン上の○マークは、 彗星核に近いほうから
β=0.0、0.1、0.2、0.3、0.4、0.5、0.6、0.7、0.8、0.9、1.0
のダストの位置。
●詳細は、以下で発表の予定。
Dust
Tail of Comet 9P/Tempel 1 after the Deep Impact: Prediction (Abstract:
Planetary Scienceより)
AOGS 2005,
the Asia Oceania Geosciences Society's 2nd Annual Meeting
●関連情報