※ この文章は、1989年夏に、彗星観測者グループ『星の広場』の機関誌に 投稿したものです。アマチュアもできる面白い彗星の観測・研究テーマを 提案したものです。  それから5年の間に、彗星の天文学も進歩しました。 CCDカメラの普及などアマチュアを取り巻く環境も 大きく変わりました。また、いま読み返すと不十分な点(特に参考文献の取り上げ方) も多く、また私自身の考え方の変わった部分もあるのですが、何かの参考になればと思 いここにおくことにしました。  なお、原文より、 Appendix C 【写真測光について】 Appendix D 【多色測光について】 の部分を省略しました。 1996/05/23 菅原 賢 ======================================= 90年代のアマチュアの彗星観測・研究  菅原 賢 《目次》 はじめに… I.彗星観測を面白くするポイント II.彗星観測のテーマ 1.コマの観測 2.中央集光部(核)の観測 3.位置観測 4.尾の観測 5.オッカルテーション VIIIAppendix  A 【必読文献】  B 【論文の入手方法について】 C 【写真測光について】 D 【多色測光について】 はじめに…  アマチュアの彗星観測といえば、ひと昔前までは新彗星の捜索と眼視による光度観測が主流でしたが、ハレー彗星の観測を境にして大きく流れが変わろうとしています。観測機材や技術の向上によって、これまでは不可能だった暗い彗星や微細構造の撮影が可能になりました。また、天体写真の対象として、彗星の撮影に精力的に取り組む方も多くなっており、たのもしい限りです。  『彗星の観測はプロの研究に貢献できる格好の対象である』とよく言われます。これはある一面で正しいのですが、重要な点で誤りを含んでいます。天文学が万人に開かれた科学である以上、『研究はプロがやればよい』というのは、もったいない話です。見るだけでも写真に撮るだけでも楽しい彗星は、研究の対象としても、実に興味深いものです。アマチュアは、学会に貢献できる研究をする義務がないと言うことは、『研究すること』がアマチュアにとって魅力のないものであるということを意味するものではないのです。苦労して得た観測データをもとに、自分なりの彗星像を少しずつ組み立てていく作業はとても魅力的で意義のあることです。学会に評価されない研究は意味がない、という考え方も誤っています。  しかし、アマチュアにとって最大の困難は、資料の不足です。彗星の観測からいったいなにがわかるのかが、その糸口がつかめず先へ進めないということをよく経験します。筆者も以前、自分の観測結果からいったいなにが引き出せるのか悩んでいたとき、西岡公彦氏(星の広場会員)が、彗星会議や彗星夏の学校で発表された、彗星観測のテーマについての資料(第13回彗星会議集録p.22〜、彗星夏の学校80年81年版p.67)を見る機会を得、大きな衝撃を受けました。そして、目的を持って観測をすると、彗星という天体がまた別の魅力を持っていることに気がつきました。  彗星は、たいへん美しい天体です。望遠鏡でながめたり、写真に撮ったりするだけでも楽しいものです。しかし、科学的な研究の対象にするのもまた楽しいものなのです。そこで、彗星の研究において興味深いテーマを筆者なりにまとめてみました。もうすでに、専門家の世界では解決されている問題も含まれているかも知れません。また、以前関東地区有志が提案した『新・星の広場彗星観測ガイド』作成のための第一歩になれば、と考えています。 I.彗星観測を面白くするポイント  さて、アマチュアの彗星観測をより面白くするには、3つのポイントがあげられます。 ★写真測光の活用  彗星の活動度の変化を追跡する上で眼視観測は非常に有効ですが、いろいろな短所もあります。写真撮影も、ただ撮影しただけでは写真の持つ明るさを測る手段としての特性を生かしきれません。そこで、写真測光の技術を取り入れていけば飛躍的に活動の場が広がります。写真測光はある程度の設備が必要ですが、アマチュアでも決して不可能なことではありません。最低限ウエッジさえうまく焼きこんであれば、他の人に測定してもらうことも出来ます。最後の章で、写真測光についての資料を紹介します。 ★論文を読もう   市販されている書籍や雑誌では、彗星に関する科学的な情報は限られていますが、各種の研究会の集録や、海外の論文には面白い内容がたくさん含まれています。英論文を読むということに抵抗のある方も多いと思いますが、辞書さえあればなんとか意味がわかるものです。内容が理解できないからといって落胆する必要もありません。プロが仕事で必死になって書いた論文なのですから、素人の我々が理解できなくても当然だと開き直り、吸収できるものだけでも吸収した方が得です。  論文の入手方法についても後ほど御紹介します。 ★議論から発表へ  観測データや研究の結果は、どしどし発表しましょう。現在アマチュアのための彗星の研究会としては、彗星会議と彗星夏の学校があります。こうした場で発表することは、何よりも発表者自身にとって勉強になります。『まだ結論が出ていないから…』と遠慮することはありません。結論を出すためにも発表することが役に立つのです。同じ参加費を払って発表しないのは損だというくらいのがめつさ(?)があってもよいと思います。また、この星の広場の年報も会員の研究を発表する場として適しています。あるいは、パソコン通信や地域のミーティングでの議論もたいへん参考になります。いまさらいうこともないのですが、アイデアは他人との議論を通して必ず発展します。  なお、研究発表の場については次の文献が参考になります。 ・渡部潤一(1988)"研究発表の場とその活用について" 彗星夏の学校集録 '88年版 pp. II.彗星観測のテーマ  現在我々にも可能で、興味深いテーマをあげてみました。それぞれに関連した分野から、できるだけ入手しやすい文献を選んで御紹介します。 1.コマの観測 【概論】  コマの観測の中でも全光度の目測は、星の広場の最も得意とする分野です。観測方法もほぼ確立し、手軽にできます。彗星の全光度は、核からの物質の放出量を反映した指標として考えられ、その変動をとらえるためにきめ細かい観測をする上で、眼視観測は非常に有効です。しかしながら、光度観測のデータだけでは、物理的メカニズムを考察する上では不十分な場合が多いので、他の観測データとのつきあわせによって、その価値が発揮されると思われます。星の広場のデータは膨大な数に昇っており、そのコンピュータによるデータベース化も進んでいます。そろそろ、その活用方法を真剣に考える時期に来ているといえましょう。  写真から彗星の光度を求めるには、いろいろな方法があります。入門書には、ピントをぼかして撮影して恒星像との目測で全光度を求める方法が紹介されていますが、眼視観測と比べてそれほど利点が多い方法ではありません。むしろ、2次元的なデータが得られる利点を活用して、輝度分布を求める方法が有効です。  写真から明るさを求めるためには写真測光の手法が必要になります。原理は簡単ですが、測定器などの準備が必要です。  写真観測の利点は、客観性があり、定量的な分析が可能であることです。さらに、波長域を限定できるということです。彗星のコマは、塵や様々な分子による光の入り混じった物ですので、それぞれを分離するためには、フィルタ−や分光器によるスペクトル観測が必要になり、これは写真観測によらざるを得ません。フィルタ−をかけての観測は、小口径では荷が重いのですが、カラーフィルムによる方法も目的によっては役に立ちそうです。 (1)明るさの観測 ★光度式の理論  いわゆる『光度式』では、彗星の全光度変化をうまく表現できない場合が多いのですが、むしろ、なぜその式と合わないのかが、研究の糸口になります。核の表面の様子が時間とともに変わったり、自転や太陽活動との関連も考えられます。  また、長期的な光度変化や多くの彗星同士の比較をする上で、『光度式』は役に立ちます。 ・Schmidt, M.(1951) " The Variation of the Total Brightness of Comets with Heliocentric Distande" ;Bull. Astron. Neth. 11,pp.91    ・Meisel, D.D. and Morris, C.S.(1976) " Comet Brightness Parameters" ;in the Study of Comets(NASA SP-393) pp.410 ・Meisel, D.D. and Morris, C.S.(1982) " Comet Head Photometry " in Comets pp.413 ・斉藤 et.al.,(1977〜1978) "彗星の光度ってなんだ" 月刊天文ガイド11月pp.28、12月pp.74、1月pp.34、5月pp.34 ★眼視観測からガスやダストの生成率を推定する方法  ガスやダストの生成率は、眼視光度と相関を持っています。ある仮定のもとに、眼視観測からガスやダストの量の変化を推定する試みも行なわれています。 ・Fischer, D. and Huttemeister, S.(1987) "Comet P/Halley: Visual Magnitude Estimetes and Gas Production" ;Symposium on the Diversity and Similarity of Comets (ESA SSP-278),pp.599 ★氷の蒸発理論との比較  彗星は、太陽系を運動する雪だるまです。雪だるまがどのような物質で出来ているかを仮定して、どのような蒸発の仕方をするのかを計算し、観測結果と比較します。また、彗星核の物理的寿命をさぐる研究もあります。 ・Coman, J.J.and A'Hearn, M.F.(1979) "Vaporization of Comet Nuclei:Light Curves and Life Times"; Moon and Planets, 21, pp.155 (彗星夏の学校集録1984年版に和訳有り) ・長谷川均(1984)"パソコンでさぐる彗星の物理的寿命" ;パソコン天文教室(地人書館) pp.167 ★多くの彗星ごとの全光度m1の振舞いの違いを統計的に見る。  彗星の年齢によって、光度変化の仕方に違いがあるか?  自転の影響 自転周期や自転軸の方向が光度変化に与える影響は?  非重力効果との関連 ・Whipple,F.L.(1978) "Cometary brightness variation ans nuclear Structure";Moon and Planets,17,pp.343 (彗星夏の学校集録'78,'79年版pp.37に和訳有り) ・長谷川一郎(1981) "彗星の光度とその変化"; 星の手帳 Vol12, pp.82 ・中村彰正(1989)"周期彗星の光度曲線と比重力効果パラメータの関係に ついて";彗星夏の学校集録 '89年版   ★アウトバーストの監視、原因の究明  彗星のアウトバーストはなぜ起きるか?  アウトバーストを起こす彗星にはなにか特徴があるか? ・Hughes, D.W.(1975) "Cometary Outbursts: A Brief Survey" ;Quart. Jour. Roy. Ast. Soc., 16, pp.410 ・渡部潤一(1989)"彗星は太陽系の放浪者" ;天文ガイド'906月号 pp.79 ★核の自転との関連 (10) ハレー彗星の探査によって、彗星の活動度と自転には深い関係があることが確かめられました。全光度の変化から自転に関する情報は得られないでしょうか? ・渡部潤一、阿部琢美(1988) "ブラッドフィールド彗星の周期的活動" ;彗星夏の学校集録 '88年版 pp.10 ・Sekanina, Z.(1985) "Light Variations of Periodic Comet Halley beyond 7 AU" ;Astron. Astrophys., 148,pp.299 ★太陽との関連  彗星が太陽面緯度の高いところを通過すると、光度が変化するという研究があります。もしそれが本当なら、どうしてその現象が起きるのでしょうか? また、黒点相対数との関係も報告されています。 ・大柳義徳(1976)" Tago-Sato-Kosaka彗星の異常増光 " ;彗星夏の学校集録 '76'77年版 pp.25 ・岩鼻辰夫(1978)"Cometの太陽面緯度変化による光度への影響" ;彗星夏の学校集録 '78'79年版 pp.47 ・唐崎秀芳 "彗星の光度変化について"; 天界, 666, pp.291 ・菅原賢(1984)"The Brihtness Variation of Comet P/Hartley-IRAS" ;彗星夏の学校集録 '84年版 pp.16 ★他の現象との関連  核の分裂や、イオンテイルの擾乱など、他の現象と全光度の変化にはなにか関連があるでしょうか? ・秋沢宏樹、菅原賢(1987) " ハレー彗星のダストテイルの形状変化と 核からのダストの放出について" ;第17回彗星会議集録(静岡) 出版準備中 ・秋沢宏樹(1988) "ウイルソン彗星(1986l)の分裂について" ;彗星夏の学校集録 '88年版 pp.24 ★口径補正・個人差の問題 アマチュアの集会でかならず議題になるテーマです。観測の質を向上させる重要な問題ですが、深入りすると何のための議論かわからなく恐れがあります。『精度』を理由に眼視観測は役に立たないと即断する人まで出てきます。ある現象を説明するためにどの程度の精度が必要であるかをみきわめることが大切ではないでしょうか。 ・市川和彦(1985)"眼視観測の評価について 眼視観測における個人差 " ;彗星夏の学校集録 '85年版 pp.25 ★輝度分布の解析  コマの輝度が核からはなれるに従ってどのように暗くなっているのかを調べると、分子の寿命や量について調べることが出来ます。 ・菅原賢、栗原浩(1990)"分子の分布状況を調べよう" ;月刊天文 '90年4月号 pp.72 ・Swamy, K.S.K.(1986)" Gas Production Rates in Coma" ;in the Physics of Comets Chapter.6 ・菅原賢(1988)" 彗星コマの輝度分布の観測 " ;彗星夏の学校集録 '88年版 pp.14 ★コマ中のガスとダストの比 光度変化や尾の出方から、彗星がダストリッチか、ガスリッチか議論されることがあります。コマの光をダストの反射光とガスの光にわけ、両者の明るさを比較することからもっと直接的に知ることはできないでしょうか? ・赤羽et al.(1987)"ハレー彗星内部コマのC2量" ;第8回太陽系科学シンポジウム(宇宙科学研究所)pp.51 (2)偏光観測  偏光観測からは彗星に含まれている塵の組成等についての知識が得られます。分子による光も偏光をみせ、そのふるまいから面白いことがわかるらしいのですが、筆者は勉強不足でよくわかりません。 ★偏光度からダスト物質を推定 ・Dobrovolsky, O.V. et.al.,(1986) "Polarimetry of Comets:A Review" ;Earth, Moon, and Planets, 34, pp.189 ★偏光度の2次元分布 ・Clarke, D. (1971) "Polarization Mesurements of the Head of Comet Bennett(1969i)"; Astron. Astrophys., 14, pp.90 ★バースト中の偏光度の変化  いくつかの彗星で、バースト中の偏光度の変化が観測されています。ダストのサイズに変化があったのでしょうか? ・Kiseleve. N.N. and Chernova, G.P.(1979) "Photometry and Polarimetry during Flares of Comet Schwassmann-Wachamann I"; Sov. Astron. Lett., 5, pp.156 (彗星夏の学校集録 '80'81年版pp.46に和訳有り) (3)形状の観測  眼視観測が有効な手段になりますが、それを数値化することはむずかしく、やはり他の観測との組合せで威力を発揮します。たとえば、急激な光度変化が見られたときにジェット等が見られたかどうか、などです。写真観測でうまく構造が捕らえられれば、様々な分析が可能になります。 ・Rahe,j., et.al(1969) "Atlas of Cometary Forms Structures Near the Nucleus" NASA SP-198 ★視直径の変化  コマの視直径を眼視的に測定する場合観測条件の影響を大きく受けます。したがって、その扱いには十分な注意が必要です。信頼できるデータが得られれば、核の自転周期を推定する重要な手がかりになります。コマの視直径はどうして変化するのか、そのしくみを考えながら観測するのがよいでしょう。 ・市川和彦 et al.(1982) " P/Schwassmann-Wachmann I彗星の最近の活動" ;彗星夏の学校集録 '82'83年版 pp.25 ★核の自転との関連  コマにみられる特徴的な構造は、核の自転を反映するものとして注目されています。Sekaninaらは、この考えに基づいて核表面の地図まで書いてしまうのですから、大胆というかなんというか天文学の醍醐味を再認識させられます。  昨年度の年報でも中村、秋澤両氏によって紹介された扇状コマの解析は、比較的観測しやすい構造ですし、お手持ちの写真の再調査をお願いしたいところです。 ・Schulz, R. and Schlosser, W.(1989) "CN-shell Structures and Dynamics of the Nucleus of Comet P/Halley"; Astron. Astrophys., 214, pp.375 ・Sekanina.z, and Larson,(1984)" Coma Morphology and Dust-Emission Pattern of Periodic Comet Halley. II. Nucleus Spin Vector and Modeling of Major Dust Features in 1910"; Astron.J., 89, pp.1408 ・大塚忠雄、市川和彦(1980) " P/Schwassmann-Wachmann I彗星の増光現象−コマ形状の周期 的変動−";彗星夏の学校集録 '80,'81年版 pp.25 ・Whipple,F.L.(1985) "The Rotation of Comet Nuclei"; in Comets pp.227 ★太陽風と彗星大気の相互作用 通常のダストテイルを構成する粒子より小さなダスト粒子は、太陽風との相互作用の結果、特徴的な構造を作るという考え方が発表されています。 ・Horanyi, M. and Mendis, D.A.(1985) "Trajectories of Charged Dust Grains in the Cometary Environment"; Astrophys.J., 294, pp.357 (4)分光観測  明るい彗星の場合、対物プリズムで撮影することが出来ますが、波長同定や像の重なりなど困難な問題があり、有効なデータが得にくい方法です。やはり、スリット式分光器が必要です。分散、空間分解能の点ではプロの観測にかないませんが、逆に広視野のスペクトルを連続的に得られるという利点を生かすのがポイントでしょう。 ★スリット式分光器による観測 ・Sorensen,B.(1987) "A Simple Slit Spectrograph";Sky & Tel., Jan.1987, pp.98 ・栗原浩(1985) "彗星分光器の製作"; 彗星夏の学校集録 '85年版 pp.12 ・栗原浩、鈴木文二(1990)"彗星の分光観測" ;月刊天文 '90年3月号 pp.70 ★対物式分光器による観測 ・菅原賢(1986)"対物プリズム法によるハレー彗星の分光測光観測" ;彗星夏の学校集録 '86年版 pp.7 ★彗星ごとのスペクトルの違い、日心距離変化 ・Newburn,R.L., and Spinard, H.(1985) "Spectrophotometry of 17 Comets, I. The emission Features"; Astron.J., 89, pp.289 ・Babu, G.S.D.(1976) "Spectrophotometry of Comet Kohoutek(1973f) During Pre-Perihelion Period" ;in The Study of Comets (NASA SP-393) 2.中央集光部(核)の観測  全光度測定に比べて意外と軽視されているのが、この観測です。観測上の困難も多いのですが、もっと重要視されていいはずです。 ★中央集光度の変化とその原因  地球から観測されるいわゆる中央集光部は核そのものをみているのではないと言われています。ならば、私たちの見ているのはいったい何でしょうか。 核をとりまく、氷のハローだという考えがありますが、それならば、中央集光部の光度からは、ハローのふるまいがわかることになります。 ・向井正(1982)"彗星のダスト" ;彗星と星間物質(地人書館) pp.111 ★核の自転周期との関連 ★核分裂のメカニズムとその解釈  彗星の核はなぜ分裂するのか、これは未だに未解決の問題です。分裂核の運動の観測だけでなくいろいろな物理現象をとらえる必要がありそうです。 ・長谷川一郎(1978) "彗星核の分裂" ; 彗星夏の学校集録 '78'79年版 pp.13 ・Sekanina,Z.(1982) "The Problem of Split Comets in Review" ;in Comets pp.251 3.位置観測  彗星の精測位置測定についてはすでに確立した技術であり、アマチュアの実績も上がっています。観測データを残して軌道を計算するだけでなく、軌道論から彗星の謎を探る段階へアマチュアも進んで行くべきでしょう。コンパレータが必要になるので、二の足をふんでいる人も多いようです。流星の位置測定に用いられている方眼焼付け法はどの程度有効でしょうか? ★位置測定 ・浦田武(1985) "天体写真計測" ;天体画像(冨田弘一郎編:恒星社厚生閣)pp.7 ★軌道決定、改良 ・長谷川一郎(  )天体軌道論(恒星社厚生閣) ・中野主一(1983) マイコン天文学(恒星社厚生閣) ★方眼焼付け法 ・大西洋(1985) "位置計測" 流星U(長沢工編:恒星社厚生閣) 2.尾の観測 (1)ダストテイル 【概論】  彗星の尾の観測には写真観測が有効です。 眼視観測は、尾の消長と大まかな形状の記録にとどまります。しかし、その記録は時に貴重なデータになります。  ダストテイルに関しては、形状からBessel-Bredikhin法を用いてダスト放出の定性的変化をとらえることはアマチュアに簡単に出来るテーマです。さらに、 Finson and Probstein法を使えば、ダストの放出率、速度、サイズ分布に関する情報も得られます。 ・Sekanina, Z(1976) "Progress in our Understanding of Comatary Dust Tails" ;in The Study of Comets(NASA SP-393), pp.893 ★形状の説明(Bessel-Bredikhin method) ・西岡 公彦(1982) "論説:彗星のタイプUの尾の力学と彗星ダストの組成" ;彗星夏の学校集録 '82,'83年版 pp.37 ・小笠原et al.(1981) "マイコンによる天文計算U:彗星の尾" ;星の手帳 Vol.11 pp.104 ・Saito.,et.al,(1981) "Substances of Cometary Grains Estimated from Evaporating and Radiation Pressure Mechanisms" ;ICARUS, 47, pp.351 ・菅原賢、長谷川均(1990)"ダストテイルを調べよう" ;月刊天文 '90年 5月号 pp.70 ・石井達郎(1985)"太陽接近時の池谷・関彗星の尾" ;彗星夏の学校集録 '85年版 pp.1 ★輝度分布の説明 ・Finson,M.L., Probstein,R.F.,(1968)"A Theory of Dust Comets I" ;Astrophys. J. 154, pp.327 ・Finson,M.L., Probstein,R.F.,(1968)"A Theory of Dust Comets II" ;Astrophys. J. 154, pp.353 ・Fulle.M. et.al.,(1988) "The Dust Tail of Comet P/Halley from ground-based CCD images";Astron. Astrophys., 201,pp.362 ・Kimura,H. and Liu,C.(1977) "On the Structure of Cometary Dust Tails" ; Chinese Astronomy, 1 , pp.235 ★偏光度分布の観測 ・小関高明(1980))"コホーテク彗星の尾の写真偏光測光" ;彗星夏の学校集録'80.'81年版 pp.22 ★ダストテイルの色 ・西岡公彦、小関高明(1985)"オースチン彗星の色" ;彗星夏の学校集録 '85年版 pp.10 ・Lamy,P.L. et.al,(1987)"The Dust Tail of Comet P/Halley in April 1986"; Astron. Astrophys., 187, pp.661 ★尾(ダスト、プラズマ)の分光による物質分布 ・鈴木文二(1988)"ブラッドフィールド彗星のスライススペクトル" ;彗星夏の学校集録 '88年版 pp.12 ★奇妙な現象の解明  ダストテイルにはときどき奇妙な構造がみられます。その成因はどう説明すればよいでしょうか。 <アンチテイル> ・Z.Sekanina(1974) "On the Nature of the Anti-Tail of Comet Kohoutek(1973f) I. A Working Model"; ICARUS 23, pp.502 ・Z.Sekanina(1976) "On the Nature of the Anti-Tail of Comet Kohoutek(1973f) II. Comparison of the Working Model with Ground-Based Photographic Observations" ;ICARUS 27, pp.135 ・Gary, G.A. and O'Dell, C.R.(1974) "Interpretation of the Anti-Tail of Comet Kohoutek as a Particle Flow Phenomenon" ICARUS 23, pp.519 <スプリットテイル> ・Jambor,B.J.(1973) "The Split Tail of Comet Seki-Lines" ;Astrophys.J. 185, pp.727 ・秋澤 et al.(1988)"On the Split Tail of Comet Bradfield 1987s" ;彗星夏の学校集録 '88 pp.1 <シンクロニックバンド> ・西岡 公彦(1988) "Formation Theory of Synchroinic Band of Comet Tail" ;彗星夏の学校集録 '88 pp.1 ・植村和彦(1980)"ウエスト彗星のダストの尾";太陽系内小天体シンポジウムpp.57 ・赤羽徳英(1980)"ウエスト彗星の2次テイル" ;太陽系内小天体シンポジウム pp.52 ・Sekanina, Z. and Farrell,J.A.(1980) "Evidence for Fragmentation of Strongly nonspherical Dust Particles in te Tail of Comet West(1976VI)" ;in Solid Particles in te Solar Syetem, pp.267 <氷の尾> ・Sekanina,Z(1973) "Existence of Icy Comet Tails at Large Distance from the Sun"; Astrophys. Letters, 14, pp.175 (2)プラズマテイル  アマチュア天体写真家が大活躍している分野です。微細構造を捕らえた写真がこれだけ大量にあるのですから、いろいろと面白いことがわかりそうです。プラズマテイルに関しては、その構造の変化が重要となりますので、測光という手法を用いなくても物差しと分度器、さらにパソコンがあればいろいろなことができます。 ・Swamy, K.S.K. (1986)"Ion Tails" in Physics of Comets Chap.10 ・Brandt,J.C.(1982) "Observations and Dynamics of Plasma Tails" ;in Comets 519- ・斉藤尚生(1989)"彗星プラズマテイルの太陽風による擾乱" ;彗星−その本性と起源−(朝倉書店)pp.167 ★プラズマテイルの位置角の変化  プラズマテイルの位置角はなぜ変化するか  急激な変化の原因はなにか  プラズマテイルは軌道平面に対してどのような傾きを持っているか ★頭部付近の微細構造とその変化 ★DE、kink等の検出、追跡 ★プラズマテイルの色、分光 ★rayの収束点、たたみこみ、進化 ★ダストジェットとプラズマテイルの形成の関連 ★H2O+、Naの尾 ★軌道平面との傾き 4.オッカルテーション  彗星は、背景にある恒星の上を移動していきます。彗星にさえぎられた恒星の明るさは多少なりとも暗くなるはずで、その観測からは彗星を構成する物質の密度などがわかるのではないでしょうか? 観測に成功した例は非常に少ないのですが、それだけにぜひチャレンジしてみたい分野です。そのためには、精度のよい予報が要求されます。 ★コマ中の大気の厚み、構造 ・市川和彦(1980)"彗星による掩蔽−ダスト大気による光吸収−" ; 彗星夏の学校集録'80'81年版 pp.20-21 ★オッカルテーションの予報 ★尾の光学的厚み ★核の大きさの測定 Appendix A 【必読文献】 彗星の研究を始めようという方のために、書店で通常入手できるもの以外の参考文献を御紹介します。 (日本語で読めるもの) ずばり、 彗星夏の学校の集録 をお勧めします。これは、毎年夏に行なわれいるて彗星の物理・化学に関する研究会の集録です。大部分がアマチュアによるレポートですが、実に様々な角度から研究が行なわれていて、たいへん参考になります。とにかく圧倒的に面白い本です。入手にあたっては、郵便振替で下記口座に送金して下さい。 加入者名 彗星夏の学校 口座番号 東京7−66592 (英語の文献)  彗星に関する単行本は、海外では数多く出版されています。そのうち、比較的新しく、彗星の全般について扱った物としてつぎの3冊があります。いずれも洋書取扱店で取り寄せ可能だと思います。 ・Brandt, J.C., Chapman, R.D., " Introduction to Comets " 1981, Cambridge : Cambridge University Press. 名前のとおり彗星の入門書だが、読みごたえがある。 ペーパーバック版は値段も安く、お勧め。 ・Wilkening, L.L., ed. " Comets " 1982, Arizona Univ. press 彗星の各分野にわたる論文集。詳細な参考文献リストが役立ちます。 ・Swamy, K.S.K., " Physics of Comets " 1986, World Scientific, Singapore 彗星の力学、化学、物理を扱った総合的な教科書。各章末には練習問題 までついている。内容はかなり高度。 Appendix B 【論文の入手方法について】  アマチュアにとって、入手しにくい学術雑誌等の文献ですが、次のような方法があります。 ★東京大学教養学部基礎科学科図書館(井の頭線駒場東大前下車)  東大教養学部の基礎科学科図書館です。ここでは外部の人間でも身分証明書を提示すると閲覧させてもらえます。製本された論文誌は一巻が百科辞典一冊分くらいなので、いくつも論文をコピーしようとすると、たちまち高さ1メートルぐらいの量になってしまいます。すると、親切に(見かねて?)ショッピングカーを貸してくれます。天文学関係の主要な論文誌はあるようです。ただし、古いもの(1950年代ぐらい以前のもの?)は天文台か本郷の理学部の図書館にあるようです。(その場合もどこにあるか教えてくれます。)  彗星に限らず天文学の研究をする上で、論文に目を通すことは不可欠です。東大生のみならず、私たちのような一般人にも開放されている(公式に開放されているのかは定かでない)この図書館は本当にありがたい存在です。 東京大学教養学部基礎科学科図書館 電話 03−467−1171(代) ★国立国会図書館  私は利用したことがありませんが、ほとんどの文献は入手できるそうです。 ★大学の図書館  私の通っていた大学のきわめて貧弱な図書館にもAP.J.とICARUSはおいてありました。(もっとも、2年分しかありませんでしたが…)。 理学系の学部のある図書館には、主要な雑誌ならばおいてあると思います。 (もちろん確認したわけではありません)問い合わせてみる価値はあります。 ★JICST(日本科学技術情報センター)  私は利用したことがありませんが、同センターで有料でコピーサービスをしているようです。  東京支所 03−230−1341(代)  一番の問題は、自分の興味ある内容がどの雑誌にのっているのかを探すことです。学術雑誌などでは、ときどきそれまでに掲載された論文の内容リストがまとめて掲載されます。とりあえずは、なんでもよいからひとつ入手して、あとはその論文の最後にのっている参考文献リストを探し、その最後の文献リストを…という具合いに芋づる式に探すのが良いかも知れません。効率が悪いようですが、関連した内容で誰がどんな研究をしているのか、いま何が問題になっているかがわかり、勉強になります。 Appendix C 【写真測光について】:省略 Appendix D 【多色測光について】:省略 以上