*1 *1 *1 *1 * 1 * 2
菅原賢・浜田亮太・広住元・岡拓真・田村裕・緒形勇
*1 日本大学天文学研究会OB会大月観測所 *2 彗星物理水曜ゼミ
(2)カメラレンズ
ニコン製50mm,F1.4レンズを自作マウントにて冷却CCDカメラに装着
(3)フィルター
ヘールボップ彗星観測ハンドブック(彗星夏の学校編 1996)で推奨されている
ものを使い、カメラレンズの対物側に装着した。
a. 富士フィルム製 BPB55(中心波長550nm,半値幅約50nm)
アセテート製のため自由に加工ができ、カメラレンズへの装着が容易なこと、
さらに入手が容易で安価なのがメリットである。
ただし、BPB55には、700nm以降にリークがあるため、次のフィルターを併用。
b. ショット社の赤外カットフィルター
この組合せでは、プラズマテイル中のCO+の輝線の影響を避けることができる。
しかし、H2O+の輝線がわずかに混入する。また、コマの部分では連続光とともにC2の
輝線成分を透過する。
なお、UBVRIシステム等への変換のためには複数の波長域での撮像が必要になるが、
今回はダストテイルの相対輝度分布を求めることを目的としたため、単一波長域のみで観測した。
(2)測光標準星の撮像
大気減光補正等のためには明るさのわかっている測光標準星を同条件で撮像しておく必要がある。
また、彗星と同一視野に入っているものの他に別の視野でも撮像した。
測光標準星としては、鈴木(1996)が編集したLanz(1986)のカタログから選び、
数が不足する場合はBSCカタログからも採用した。
なお、スペクトル型は太陽光に近いF,G、K型の星を中心に選んだ。
(3)フラットフレーム取得
観測終了後、次の方法でフォラットフレームを取得した。
a. フィルター前面に紙(コピー用紙)をかぶせる
b. 白色電球による光を白色アクリル板で反射させ,
紙フィルターを通してカメラに入射させて撮像
(1)ダーク補正
各ライトフレームからその前後に取得したダークフレームを1枚づつ使い、
ライトフレームから引いた。
(2)フラット補正
フラットフレームからダークフレームをひいたもの4枚を合成し、
正規化したもので(1)の処理を終えたフレームを割り算した。
今回のフラットの撮像方法でどの程度正確なフラットが撮れたかは不明である。
但し,4枚のフレームのそれぞれの差は小さく(1%程度)
枚数ごとには均一なものが撮れたと考えられる。
Fig.1
sky処理の例。図中の正方形の対角線にそった輝度プロファイルを示す。
Fig.2
skyを引く前のプロファイル。
Fig.3
パラメータ入力の様子。
Fig.4
skyを引いた後のプロファイル。
(1)減光係数の決定
今回は、いわゆる1次減光補正のみ扱った。
大気量Xの時の等級m0の天体の見かけの等級mは、
1次減光係数kを用いて、次のように表される。
m = m0 + kX (1)
kの値は、m0のわかっている比較星(減光星)の
大気量ごとの見かけの等級を観測すればよい。
今回は視野が広く多くの比較星が一度に撮像できるので、
一度に複数の大気量における減光度を知ることができる。
この処理もMAIAで行った。sky処理の終わっていないフレームを
用いたので以下のようにskyの補正も同時に行う。
a. 使用する比較星すべてについてその輝度プロファイルを測定し、星像のサイズ、
おおまかなskyレベルを求める。この結果を用いてすべての比較星について同じ条件)
で測定をすすめる。(最も星像の大きいものにアパーチャーサイズをあわせた)
b. 各比較星を適当な矩形領域で囲み、その中の最大輝度を持つ点を星像の中心とする。
c. 星像をぎりぎりで覆う半径を持つ円形のアパーチャー内の積分値を求める。
d. それよりやや大きめのサイズのアパーチャで測定した積分値からcの値を引くと、
恒星近傍のドーナツ状のsky領域の積分値が得られる。これを内挿することにより、
恒星と重なっているskyの積分値を得る。
e. cの結果からdを引くと恒星のみの光度が得られる。
c, d, e,の処理は自動的に行われる。
比較星には、Table.1のものを使った。スペクトル型はできるだけダストテイルと似た
色を持つF,G,K型のものを使った。スペクトル型の違い、
また観測時刻による減光度の変化を無視したことになるが、
実際には影響はないようである。
こうして測定したデータを最小自乗法で1次近似し、
減光係数として0.3331を得た(Fig.5)。
Table.1 減光星のリスト
================================================= No. Vmag. spec. Remark ================================================= 1 BSC947 4.64 K1III 2 BSC923 6.05 K0III * 3 BSC879 4.70 A2Vn 4 BSC876 6.04 K3 * 5 BSC855 5.33 F4IV * 6 BSC840 4.23 F2III 7 BSC831 6.45 F6III * 8 BSC1974 6.59 A3DeI 9 BSC1884 6.16 G3Ib+F 10 BSC1729 4.71 G1.5IV 11 BSC1689 4.88 A4Vm ================================================= * は鈴木のカタログにはのっていないもの。 1-7は彗星と同一視野。
(2)2次元での大気減光補正
(1)で求めた減光係数を用いると、各ピクセルの大気量(地平高度)がわかれば
2次元的に補正が可能になる。このような低空では、画面上の場所によって大気減光
の度合が大きく異なるため、ダストテイルの表面輝度分布を求めるためには、
2次元での大気減光補正が必要になる。以下の処理を行うプログラムを開発した
(MS-DOS用)。
処理の内容は以下の通りである。
a. 画面内で天球座標のわかっている複数の比較星のピクセル座標を求め、標準座標法
で、乾板定数より各ピクセル天球座標を求める。
b. 観測地の経度、緯度、観測時刻から各ピクセルの大気量を求める。
c. 各ピクセルごとに大気量が0の場合の輝度値に変換する。
この段階での誤差としては、乾板定数の決定誤差、大気差による位置の変化が
考えられる。比較星の位置の残差は数十秒であり、ほぼ無視してよいと考えられる。
以上の処理で、彗星の相対輝度分布を表わす画像ができあがった。
今回の観測では、skyを引いた段階でのダストテイルの部分のカウント値は
1000程度であり、S/Nが不足気味である。
そこで、彗星核の位置を基準にしてこのうち3枚の画像を合成した。
さらに、モデル計算と比較する際便利なように画像を時計回りに8度回転させ、
画面の上が北に向くようにあわせた。
処理の終わった画像を簡易コントア表示したものをFig.6に示す。
また、大気減光補正まで終わった6枚の画像のリストをTable.2に示す。
Table.2 できあがった画像のリスト(スケールは 99.7[pixels/degree])
============================================= No. 露出開始時刻 露出時間 remark 1996年4月13日 JST min. ============================================= 37e.fit 20:19:40 1.0 * 38e.fit 20:24:32 1.0 * 39e.fit 20:26:20 3.0 * 40e.fit 20:38:12 3.0 41e.fit 20:42:06 3.0 42e.fit 20:49:50 3.0 ============================================= *は、合成に使用したフレーム。
Fig.6
ダストテイルの相対輝度分布。
図の上が北。図中の太い直線の長さが1度に相当。
画像の輝度レベルを256階調に圧縮し、250, 200, 150, 100, 75の
5段階でコントアを描いた。最も北側の長くのびている部分は
プラズマテイルと思われる。
Fig.7
Bessel-Bredikhin法を用いたダストの位置の分布。
Fig.6と方向、スケールをあわせてある。
直線で結んであるのがシンクロン曲線。
最も北側から、放出時刻が近日点通過40, 60, 80, 100, 120, 140日前のもの。
黒丸はβ=0.05の間隔でプロット。
Fig.6、7を比較すると、この夜のダストテイルはおおむね放出時刻が
近日点通過50日前以後に放出されたダストで構成されていることがわかる。
この日は視線と軌道平面のなす角が約20度と小さく、
ダストの分布を詳しく調べるのは難しい。
これ以上の分析には放出初速度を考慮した測光モデルが必要であろう。
(1)広角のレンズではskyの処理がやはり難しい。
(2)大気減光の補正のために十分な数の比較星を確保すること。
(3)BPB55、赤外カットフィルターの組み合わせでも、H2O+の強度が強いと影響が出る。
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