Written by K. Sugawara Updated on Aug.29, 1996

1996年彗星夏の学校

CCDカメラによるダストテイルの広角測光観測
------1996年4月13日の百武彗星(C/1996b2)------
Wide Filed CCD Photometry of Cometary Dust Tails

			   *1        *1      *1      *1     * 1     * 2
菅原賢・浜田亮太・広住元・岡拓真・田村裕・緒形勇

*1 日本大学天文学研究会OB会大月観測所 *2 彗星物理水曜ゼミ

abstract

 最近アマチュアの間で普及している冷却CCDカメラは、すでに様々な彗星の観測に利用され、 成果をあげはじめている。我々は、市販の冷却CCDカメラにカメラレンズを組み合わせた 広視野の光学系で百武彗星のダストテイルの観測を行い解析を進めている。 本稿では観測から整約に至るまでの作業の経過の報告とともに、 簡単なモデル計算と比較した結果を示す。

1. Introduction

 大規模なダストテイルの場合には、広い視野の光学系が要求される。 こうした観測ではシュミットカメラ、望遠レンズ等が広く用いられている。 しかしダストテイルを形態学的に解析する場合は写真観測でも十分威力を発揮するが、 ダストの量などを定量的に扱うにはどうしても測光が必要になる。 そのためには写真よりもCCDカメラが適している。 現段階ではCCDチップの面積の整約により写真と同程度の分解能をもたせると 広視野が得にくいのが欠点である。 しかしこの点に目をつぶれば、短焦点のレンズと組み合わせることにより かなりの広視野を確保することは可能である。 レンズの口径が小さく集光力が弱い点はCCDの高感度である程度カバーできよう。 実際には測光モデルとの比較においてはそれほど高い分解能が要求されないことも多い。 そこで今回の百武彗星では、標準レンズ(50mm)との組み合わせで観測を行った。
 この種の観測は過去にハレー彗星に対していくつか研究例 ( Lamy et al. 1987, Fulle et al. 1988)があるがまだ多くはない。 おそらく後述するように広視野での観測特有のやっかいな問題があることが 二の足を踏ませていると思われる。 また、アマチュアの間でCCDカメラが本格的に普及して間もないこともあり、 解析の手法はまだ確立していないと言って良いのではないだろうか。 来年の春にはヘール・ボップ彗星が接近し大規模なダストテイルを見せることが期待される。 そこでこのレポートでは1996年4月13日の百武彗星の観測・整約を例としてあげ、 より精度の良い観測を行うための議論の足がかりとしたい。

2.使用器材

(1)CCDカメラ
  Meade社製 Pictor416 Chip KAF-0400  768*512[pixels] 6.90*4.60[mm] 16bit A/D

(2)カメラレンズ
  ニコン製50mm,F1.4レンズを自作マウントにて冷却CCDカメラに装着

(3)フィルター
ヘールボップ彗星観測ハンドブック(彗星夏の学校編 1996)で推奨されている ものを使い、カメラレンズの対物側に装着した。

  a. 富士フィルム製 BPB55(中心波長550nm,半値幅約50nm)

  アセテート製のため自由に加工ができ、カメラレンズへの装着が容易なこと、 さらに入手が容易で安価なのがメリットである。 ただし、BPB55には、700nm以降にリークがあるため、次のフィルターを併用。

  b. ショット社の赤外カットフィルター

 この組合せでは、プラズマテイル中のCO+の輝線の影響を避けることができる。 しかし、H2O+の輝線がわずかに混入する。また、コマの部分では連続光とともにC2の 輝線成分を透過する。
 なお、UBVRIシステム等への変換のためには複数の波長域での撮像が必要になるが、 今回はダストテイルの相対輝度分布を求めることを目的としたため、単一波長域のみで観測した。

3.撮像シークエンス

(1)彗星の撮像
 各ライトフレームに対して,ダークフレーム1枚という形で交互に撮像した。 使用したCCDカメラの温度コントロールの精度が悪く(+-0.5〜1度), あまり一定したダークが撮れない。また、ダークフレームは複数用いるのが理想的だが、 温度差による補正のためのデータをまだ得ていないため、今回は1枚のみ用いた。

(2)測光標準星の撮像
 大気減光補正等のためには明るさのわかっている測光標準星を同条件で撮像しておく必要がある。 また、彗星と同一視野に入っているものの他に別の視野でも撮像した。 測光標準星としては、鈴木(1996)が編集したLanz(1986)のカタログから選び、 数が不足する場合はBSCカタログからも採用した。 なお、スペクトル型は太陽光に近いF,G、K型の星を中心に選んだ。

(3)フラットフレーム取得
 観測終了後、次の方法でフォラットフレームを取得した。

a. フィルター前面に紙(コピー用紙)をかぶせる
b. 白色電球による光を白色アクリル板で反射させ, 紙フィルターを通してカメラに入射させて撮像

4.1次処理

 1次処理はIRAF(Image Reduction and Analysis Facility)上で行った。

(1)ダーク補正
 各ライトフレームからその前後に取得したダークフレームを1枚づつ使い、 ライトフレームから引いた。

(2)フラット補正
 フラットフレームからダークフレームをひいたもの4枚を合成し、 正規化したもので(1)の処理を終えたフレームを割り算した。 今回のフラットの撮像方法でどの程度正確なフラットが撮れたかは不明である。 但し,4枚のフレームのそれぞれの差は小さく(1%程度) 枚数ごとには均一なものが撮れたと考えられる。

5. skyのキャンセル

 以上の処理でできあがった画像には、まだ背景光が混入している。 彗星のみの明るさを知るためには、これを引かなければならない。 この処理は、MAIA(Macintosh Astrnomical Image Analysis)で行った。  まず、画像上に縦横10ピクセル間隔でグリッドを設定し、 交差点をサンプルポイントとして値を読み出す(合計約4000ポイント)。 ただし、このままではサンプルポイントがbad pixelや天体に重なっていると 正しい結果にならない。そこで、全画面を調査し、サンプルとして採用する輝度値の 最高値と最低値を入力した。
 次に、サンプルポイントを曲面で近似する。その結果生成されたsky画像を オブジェクトフレームから引いた。
 なお、一連の処理はほぼソフトウエアが自動的に行ってくれる。実際には 結果を見ながら、最も適当な関数形を決めた上で、サンプリングの間隔、 敷値を操作することによりfittinngすることになる。
 今回の観測は地平高度10度程度という超低空で行われたこともあり、 視野内でのskyレベルには大きな差(しかもかなり不規則)がある。 このような場合彗星付近の領域のみ取り出して処理する方法もあるが、 今回は視野内にかなりの範囲までダストテイルが広がっているため、 ほぼ全面を使わざるを得なかった。実際には、試行錯誤を繰り返し、 彗星付近のskyを最もよく再現する組合せを探した。 しかし、完全に満足する結果は得られず、彗星付近ではやや負修正気味で、 およそ100カウント程度残っていると考えられる。


Fig.1
sky処理の例。図中の正方形の対角線にそった輝度プロファイルを示す。


Fig.2
skyを引く前のプロファイル。


Fig.3
パラメータ入力の様子。


Fig.4
skyを引いた後のプロファイル。

6.大気減光補正

 高精度の測光のためには大気減光の補正が必須である。 特に低空での観測の場合は、わずかな地平高度の差によって 見かけの明るさが大きく変わってしまう。

(1)減光係数の決定
 今回は、いわゆる1次減光補正のみ扱った。 大気量Xの時の等級m0の天体の見かけの等級mは、 1次減光係数kを用いて、次のように表される。

m = m0 + kX    (1)

 kの値は、m0のわかっている比較星(減光星)の 大気量ごとの見かけの等級を観測すればよい。 今回は視野が広く多くの比較星が一度に撮像できるので、 一度に複数の大気量における減光度を知ることができる。

   この処理もMAIAで行った。sky処理の終わっていないフレームを 用いたので以下のようにskyの補正も同時に行う。

 a. 使用する比較星すべてについてその輝度プロファイルを測定し、星像のサイズ、 おおまかなskyレベルを求める。この結果を用いてすべての比較星について同じ条件) で測定をすすめる。(最も星像の大きいものにアパーチャーサイズをあわせた)

 b. 各比較星を適当な矩形領域で囲み、その中の最大輝度を持つ点を星像の中心とする。

 c. 星像をぎりぎりで覆う半径を持つ円形のアパーチャー内の積分値を求める。

 d. それよりやや大きめのサイズのアパーチャで測定した積分値からcの値を引くと、 恒星近傍のドーナツ状のsky領域の積分値が得られる。これを内挿することにより、 恒星と重なっているskyの積分値を得る。

 e. cの結果からdを引くと恒星のみの光度が得られる。

c, d, e,の処理は自動的に行われる。

 比較星には、Table.1のものを使った。スペクトル型はできるだけダストテイルと似た 色を持つF,G,K型のものを使った。スペクトル型の違い、 また観測時刻による減光度の変化を無視したことになるが、 実際には影響はないようである。
 こうして測定したデータを最小自乗法で1次近似し、 減光係数として0.3331を得た(Fig.5)。

Table.1 減光星のリスト
================================================= No.       Vmag. spec. Remark ================================================= 1 BSC947 4.64 K1III 2 BSC923 6.05 K0III * 3 BSC879 4.70 A2Vn 4 BSC876 6.04 K3 * 5 BSC855 5.33 F4IV * 6 BSC840 4.23 F2III 7 BSC831 6.45 F6III * 8 BSC1974 6.59 A3DeI 9 BSC1884 6.16 G3Ib+F 10 BSC1729 4.71 G1.5IV 11 BSC1689 4.88 A4Vm ================================================= * は鈴木のカタログにはのっていないもの。 1-7は彗星と同一視野。

Fig.5
大気量と減光度の関係

(2)2次元での大気減光補正

(1)で求めた減光係数を用いると、各ピクセルの大気量(地平高度)がわかれば 2次元的に補正が可能になる。このような低空では、画面上の場所によって大気減光 の度合が大きく異なるため、ダストテイルの表面輝度分布を求めるためには、 2次元での大気減光補正が必要になる。以下の処理を行うプログラムを開発した (MS-DOS用)。
処理の内容は以下の通りである。

a. 画面内で天球座標のわかっている複数の比較星のピクセル座標を求め、標準座標法  で、乾板定数より各ピクセル天球座標を求める。

b. 観測地の経度、緯度、観測時刻から各ピクセルの大気量を求める。

c. 各ピクセルごとに大気量が0の場合の輝度値に変換する。

この段階での誤差としては、乾板定数の決定誤差、大気差による位置の変化が 考えられる。比較星の位置の残差は数十秒であり、ほぼ無視してよいと考えられる。

7.フレームの合成作業等

 以上の処理で、彗星の相対輝度分布を表わす画像ができあがった。 今回の観測では、skyを引いた段階でのダストテイルの部分のカウント値は 1000程度であり、S/Nが不足気味である。
そこで、彗星核の位置を基準にしてこのうち3枚の画像を合成した。 さらに、モデル計算と比較する際便利なように画像を時計回りに8度回転させ、 画面の上が北に向くようにあわせた。

8. 結果

 処理の終わった画像を簡易コントア表示したものをFig.6に示す。 また、大気減光補正まで終わった6枚の画像のリストをTable.2に示す。

Table.2  できあがった画像のリスト(スケールは 99.7[pixels/degree])
============================================= No.   露出開始時刻  露出時間 remark      1996年4月13日      JST        min. ============================================= 37e.fit 20:19:40     1.0     * 38e.fit 20:24:32     1.0     * 39e.fit 20:26:20     3.0     * 40e.fit 20:38:12     3.0 41e.fit 20:42:06     3.0 42e.fit 20:49:50     3.0 ============================================= *は、合成に使用したフレーム。


Fig.6
 ダストテイルの相対輝度分布。 図の上が北。図中の太い直線の長さが1度に相当。 画像の輝度レベルを256階調に圧縮し、250, 200, 150, 100, 75の 5段階でコントアを描いた。最も北側の長くのびている部分は プラズマテイルと思われる。


Fig.7
 Bessel-Bredikhin法を用いたダストの位置の分布。 Fig.6と方向、スケールをあわせてある。 直線で結んであるのがシンクロン曲線。 最も北側から、放出時刻が近日点通過40, 60, 80, 100, 120, 140日前のもの。 黒丸はβ=0.05の間隔でプロット。

9. モデル計算と簡単な考察

 Fig.6、7を比較すると、この夜のダストテイルはおおむね放出時刻が 近日点通過50日前以後に放出されたダストで構成されていることがわかる。 この日は視線と軌道平面のなす角が約20度と小さく、 ダストの分布を詳しく調べるのは難しい。 これ以上の分析には放出初速度を考慮した測光モデルが必要であろう。

10. 問題点、今後の課題

 ヘール・ボップ彗星の観測を前に、基本的な手続きの練習、 ソフトウエアの開発を行うことができた。問題点等を列挙しておく。

(1)広角のレンズではskyの処理がやはり難しい。
(2)大気減光の補正のために十分な数の比較星を確保すること。
(3)BPB55、赤外カットフィルターの組み合わせでも、H2O+の強度が強いと影響が出る。

謝辞

 今回の観測に際し、冷却CCDカメラを快く貸してくださった中田和雄氏に感謝したい。 また、解析にあたってはIRAF、MAIAを利用した。開発者に感謝する。
 なお、本研究には菅原に交付された平成8年度科学研究費補助金(課題番号08916019) の一部が使われた。

参考文献

Lanz, T. (1986) Astron. Astrophys. Suppl. Ser., 65, p.195.
Lamy, P. L., Pedersen, H., and Vio, R., (1987) Astron. Astrophys., 187, p.661.
Fulle, M., Barbieri, C., and Cremonese, G. (1988) Astron. Astrophys. 201, p.362.
彗星夏の学校編(1996)  ヘール・ボップ彗星観測ハンドブック
鈴木文二(1996) 同上ハンドブック p.135.

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